肉眼的特徴
かさ:径(20-)50-70mm,はじめ半球型から平らに開き縁は管孔面よりややせりだす;平滑で湿時には強い粘性を有する;色は暗赤色から深赤色,周辺部では退色し淡く,ベージュから淡黄色,しばしば不規則に退色した箇所が点在する;変色性は無い.
柄:長さ50-120mm径10-20mm,円柱形または下方に向かってやや膨らみ基部ではやや細まる,中心性,中実;はじめ全面を隆起した細かい網目に覆われ成熟と共に表皮が大きくひび割れ柄の肉が露出する,網目の間は赤色から淡赤色,網目は暗赤色,基部は淡黄色の綿毛状菌糸に覆われる;変色性は無い.
肉:傘肉の厚さは(3-)6-10mm,淡黄色で傘表皮直下では暗赤色,柄肉は傘肉よりもやや濃色で表皮付近,しばしば全面が赤色を帯びる;管孔部周辺に弱い青変性がある.
管孔:柄の周囲で陥入し長さ(2-)6-10mm,色は黄色から帯緑黄色,老成すると汚黄色となる;傷つくと青変する. 孔口:径1-2per mm,類円形;色は暗赤色で傷つくと青変する.
胞子紋:未確認
肉眼的呈色反応:KOHまたはアンモニアで傘表皮と孔口が黄色に変色する;FeSO4,Guaiac,Phenol,Formalin,Guaiacol,Anilineで全ての部位が反応無し.
担子胞子:大きさ(13.2-)15.0-17.5(-21.1) x (4.3-)5.2-6.2(-7.2)μm ave16.28 x 5.70μm Q (2.2-)2.7-3.1(-3.8) ave 2.86μm (N=500, 5標本で測定),HoloType (13.3-)15.0-16.9(-18.3)×(4.3-)5.1-5.6(-6.1) 平均16.0×5.3 Q値(2.6-)2.8-3.2(-3.4) 平均3.0 (N=100), 類紡錘形,ボート形,水封で淡い帯緑黄色,KOHで淡蜜色,メルツァーで黄褐色または偽アミロイド.
担子器:子実層に散性し,大きさ(26.0-)34.5-47.0(-53.9) x (8.0-)9.6-12.1(-14.8)μm ave 40.73 x 10.82μm (N=109, 4標本で測定),こん棒形,(1,2,3-)4胞子性;KOHで淡黄色から無色,メルツァーで黄褐色.
側シスチジア:子実層に散性し,大きさ(32.6-)42.7-60.1(-77.9) x (5.6-)7.2-9.4(-11.4)μm ave 51.38 x 8.28μm (N=81, 4標本で測定),紡錘形;KOHで淡黄色から無色,メルツァーで黄褐色.
縁シスチジア:管孔縁部に密生し不実帯を形成する,大きさ(34.6-)52.1-70.0(-81.8) x (3.8-)4.6-6.4(-7.9)μm ave 61.05 x 5.50μm(N=86, 3標本で測定),円柱形,類紡錘形長,こん棒形;KOHで淡黄色から無色,メルツァーで黄褐色.
子実層実質を構成する菌糸:外側へ向かって散開する(イグチ亜型).側層菌糸の太さ(3.8-)4.6-6.4(-7.8)μm ave 5.49μm (N=72, 3標本で測定),中層菌糸の太さ(2.5-)3.2-4.2(-5.3)μm ave 3.69μm (N=73, 2標本で測定);KOHで無色,メルツァーで黄褐色.
かさ表皮を構成する菌糸:ゼラチン質に覆われた毛状被ixotrichodermを形成する,径(1.5-)2.4-3.3(-4.9) ave 2.85μm (N=371, 5標本で測定),末端細胞は大きさ(25.4-)36.5-58.6(-75.3) x (2.8-)3.0-4.7(-6.4)μm ave 47.56 x 3.82μm (N=28, 2標本で測定),円柱形,長こん棒形,赤い色素を有する;KOHで速やかに青変した後速やかに黄色に変色する,メルツァーで黄褐色.
かさ実質を構成する菌糸:円柱形で密に錯綜する,径(2.3-)3.4-6.2(-8.2)μm ave4.81μm (N=36);表皮との境目付近では赤い色素を有する;KOHで無色,メルツァーで黄褐色.
柄表皮:子実層状をなし柄担子器,偽担子器,柄シスチジアが密に並び網目部分は密生した柄シスチジアによって構成されている,赤い色素を有する;KOHで青変のち黄色,メルツァーで黄褐色.
柄シスチジア:網目の間では大きさ(24.1-)30.6-43.0(-50.0) x (5.5-)5.9-8.3(-10.9) ave 36.80 x 7.09μm (N=44, 2標本で測定),紡錘形,類紡錘形,薄壁;網目部では大きさ(40.9-)49.3-70.1(-86.3) x (4.5-)5.3-7.6(-9.7) ave 59.74 x 6.45μm (N=47, 2標本で測定),紡錘形,円柱形,長こん棒形,薄壁.
柄実質を構成する菌糸:縦方向に平行に走る菌糸からなり,表皮直下ではゆるく錯綜する,径(3.2-)4.6-7.7(-11.2)μm ave6.15μm (n=46);KOHで無色,メルツァーで黄褐色.
全ての菌糸にクランプを欠く.
供試標本:国立科学博物館に所蔵 TNS-F-37407,TNS-F-37408,TNS-F-37409,TNS-F-37404,TNS-F-37405,TNS-F-37406, TNS-F-37410
発生地,時期と分布:7月から9月にオオシラビソ,コメツガ等の亜高山帯針葉樹林に発生し,分布は本州中部山岳地帯.
コメント:Boletus frostiiによく似た幻のイグチとして知られていた.子実体全体が暗赤色でかさに粘性を持ち,柄に隆起した網目を持ち,成熟時には柄表皮が大きくひび割れるという特異な形質をもつ.柄表皮直下にはゆるく錯綜した菌糸の層が存在し,ひび割れの要因となっていると考えられる.袁明生ほか(2008)にBoletus rubrus Zangとして同種と思われる菌が掲載されているが,B. rubrusは正式な学名ではないと考えられる(命名規約に従えばB. ruberが正しい).
類似種
北米産,コスタリカ産Boletus frostii J.L. Russell(Snell and Dick 1970; Smith and Thiers 1971; Bessette et al. 1997, 2000;Halling and Mueller 2005)は,子実体全体が暗赤色でかさに粘性を持つ点が類似するが,柄の網目の隆起がより顕著で,肉に明瞭な青変性をもち,広葉樹林に発生する点に於いて異なる.
ベリーズ産Boletus pseudofrostii B. Ortiz (Ortiz-Santana et al. 2007)は,子実体全体が赤色でかさに粘性を持つ点が類似するが,小型の子実体を形成(かさ径17-20mm)し,柄の地色は黄色,担子胞子は7.2-12 x 4-4.6μmと小型である点で異なる.
チベット産Leccinum rubrum M. Zang (Zang 1986)は,子実体全体が赤く,かさに粘性がある,柄がささくれる点において類似するが,管孔が赤い,柄頂部の地色は橙色を呈する,縁シスチジアを欠く点において異なる.
日本産Boletus generosus(Takahashi 1988)は,粘性のある赤いかさをもつ点で類似するが,柄表面の地色は黄色で頂部にのみ赤い細かい網目を持つ,担子胞子は小判形で大きさ9.5-12 x 4.5-5.5 μmと小型である点で異なる.
参考文献
Bessette AE, Bessette AR, Fischer DW (1997) Mushrooms of Northeastern North American. / Bessette AE, Roody WC, Bessette AR (2000) North American Boletes. / Halling RE, Mueller GM (2005) Common Mushrooms of the Talamanca Mountains, Costa Rica. / Ortiz-Santana B, Lodge DJ, Baroni TJ, Both EE (2007) Boletes from Belize and the Dominican Republic. Fungal Diversity 27(2):247-416
/ Smith AH, Thiers HD (1971) The boletes of Michigan. / Takahashi H (1988) A new species of Boletus sect. Luridiand a new combination in Mucilopilus. Trans mycol Soc Japan 29: 115-123 / Zang M (1986) Notes on the Boletales from Eastern Himalayas and adjacent areas of China. Acta bot Yunn 8(1):1-22 / 袁明生ほか編著 (2008)中国蕈菌原色図集
注:記載は2ndオーサーである種山が独自に書いた物であり、新種発表論文の和訳ではありません。
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