イグチの乾燥標本

まだ顕微鏡観察を始める前に、採集したものをとりあえず乾燥標本にしてみたことがありますが、Fig1のように、かさ部をそのまま乾燥していました。顕微鏡を入手し、いざ検鏡にチャレンジをしてみるとFig2,3のような状態から管孔部の切片を切り出すのは容易ではないことが分かり、以降はかさ部を3ミリから5ミリ程度の厚さにスライスしてから乾燥するように変更しました(Fig4)。

結果、FIg5のように、管孔部を一部とりだし縦断面を切り出すことが容易にできるようになりました。

Fig1
3年前に作製した乾燥標本
Fig2
管孔部が変形し縦断面の切り出しは困難
Fig3
Fig4
スライスして作製
Fig5
切片作製のため一部を取り出した
Fig6
管孔面は黒くただれている

乾燥標本保存の目的はやはり後日の検鏡所見再検討であると言えます。Fig1のような標本はKOHで組織をばらせば側シスチジアや担子器のデータはとれます。しかし、縁シスチジアの場合「そのシスチジアが偽シスチジアであるかどうか」は、管孔縦断面の良い切片をつくり「実質菌糸に起因しているか」を見なくてはなりません。またイグチのように肉厚で水分を多く含む子実体を、まるごと乾燥させようとすると必要以上の熱、時間をかけることになり組織が煮えてしまうことがあるそうです。故にスライスして標本作製することは重要であると考えています。

某所から標本をお借りして検討する機会がありましたが、その標本をみてガックリときてしまいました。腐敗した物を無理矢理乾燥したのか熱の加えすぎなのかFig6のように管孔部が判別できないような状態となっていました。本来、1センチはあったであろう「かさ肉」の厚みが2ミリ程度まで圧縮されています(Fig7)。触ってみるとカチカチに固くカミソリで切断できそうもない感触でした。

それでもなんとか一部を切りだし検鏡してみると、案の定、組織は壊れ担子器やシスチジア・実質菌糸は判別不能な状態で、胞子のデータしか得られないという結果となりました(FIg8)。もっとも見たかった「かさ表皮」は、組織が壊れていたため柵状被であることはなんとか判別できましたが(Fig9)、重視している「かさ表皮菌糸の太さ」のデータを取ることは不可能でした。

私も他の分類群において「どのように標本作製すべきなのか」を知りません。「その分類群に見合った標本作製方法が、もっと周知されること」が重要ではないかと感じています。

Fig7
黒くただれた部分は管孔だった
Fig8
担子器,シスチジアは確認不能
Fig9
かさ表皮が柵状被であることは判別可能


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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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