KOHや水で胞子は膨らむのか?

書いたままほったらかしになっていたネタです。

過去において「長時間水につけた標本の胞子はふやけて膨らむかもしれない」と書きましたが、実際どうなのでしょうか。

ある標本の胞子を検鏡写真から100個測定しましたが、予想よりも小さな値が得られたため、再度、同一プレパラートを使い写真を撮影するところからやり直しました。プレパラートはKOHで封入してから30分が経過していました。当初の数値と再測定の数値を以下に示します。

  • 当初の値 10.74±0.67 x 3.84±0.30 μm (n=100)
  • 再測定値 12.43±0.81 x 4.55±0.37 μm (n=100)

この数値のみに着目すれば「胞子はKOH液中で時間経過と共に膨らむ」という判断が出来ます。しかし、そう簡単には決めつけられません。fig1は、「当初の値」の測定に使用した写真の1枚ですが、視野内に胞子が密集しており、この写真だけで40個ほど測定可能です。ということは100個測定したとはいえども「狭い範囲の胞子のみ測定した」ことになります。

「たまたま大きめの胞子が並んでいた、またはその逆」といった例を過去に多く見ていますので上記の例のみで判断することは出来ません。同一胞子で値が変化するのかを見る必要があります。
下記は、同一胞子の、封入直後と50分後の値です。

  • 胞子A 封入直後14.29 x 4.14μm  50分後14.14 x 4.06μm
  • 胞子B 封入直後14.06 x 4.37μm  50分後14.02 x 4.37μm
  • 胞子C 封入直後10.75 x 3.86μm  50分後10.75 x 3.84μm
  • 胞子D 封入直後12.54 x 4.59μm  50分後12.36 x 4.58μm

結果は「有意な差は認められない」でした。組織の柔軟化に使用されるKOH水溶液でこのような結果ということは、おそらく水封でも同様であろうと想像できます。したがって「長時間水につけた胞子はふやけて膨らむ」は誤っている、と判断します。水封での検証が必要なのかも知れませんがどうするのかは未定。

fig. 1 fig. 2 封入直後 fig. 3 50分後


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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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