FTAカードとパンチ

子実体からDNAを抽出するやり方はいくつかあります。これまでに最も多く使われてきた手法はCTAB法というもので、その手順は、サンプルを液体窒素で凍らせ、すり鉢ですりつぶし、クロロホルムなどを使って不純物を取り除き‥‥と、設備や試薬が大がかりで個人では実践できないものとなっています。

もっとお手軽にできるのがWhatman社製のFTAカードです。生標本またはエタノールで柔軟化した乾燥標本の断片をFTAカードの上ですり潰すだけでDNAが抽出できます。Fig.1はDNA抽出済みのFTAカードとそれをくり抜くための道具「パンチ」です。パンチでくり抜いた直径1mmほどのカード断片を用いてPCRを行います。

さて、以前こちらでPCRからシーケンスまでの間にサンプルの取り違えがあったと書きましたが、実はそうではなかったと断定するに至りました。ちょっと前に「さらにもっとひどい現象」が起きたので徹底的に原因究明をしたのです。もっとひどい現象とは次のような感じです。

  • 1)種A, 種B, 種C, 種D, 種E, 種F, 種G
  • 2)種A, 種A, 種C, 種D, 種E, 種A, 種G
  • パンチとPCRの順番は1.の通りですが、得られた配列データは2.のようになってしまうのです。

    種Aの配列がいくつも得られてしまう‥‥。こんな状態ではまともな研究になりません。例えば、種A1, 種A2, 種A3, 種A4とやっても、すべて正しく配列が得られたのか、あるいは種A1ばかりいくつも得られたのか?判定することは不可能です。

    原因はパンチの刃先にありました(Fig.2)。

    ひどいもんです。単に粗めのヤスリで角を落としただけに見えます。刃物としては最低の仕上がりで、どうやら使っている内に刃先が内側へ曲がってしまうようです(Fig.2の矢印部分)。この状態でFTAカードをくり抜くとどうなるのか?

    Fig.3の矢印で示した箇所を見ると、刃先の「内側に曲がった箇所」にFTAカードの屑が付着しているのが分かります。この状態で、別のサンプルをくり抜けばコンタミは必至です。刃先の内側に引っかかっているので、刃先をさっと拭いただけでは除去できないでしょう。上で示した「種Aの配列が複数得られてしまう現象」も納得できます。

    Fig.1 Fig.2 Fig.3


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