ドクヤマドリはNeoboletus

昨年の春にドクヤマドリはNeoboletusであるとした Wu et al. 2015 に衝撃を受けました。ちょっと信じられませんでした。なぜならNeoboletusとはオオウラベニイロガワリ Boletus luridiformis をタイプとして提唱された属で、肉眼的にパッと見た感じではドクヤマドリとの共通点が見いだせなかったからです。その後、日本産ドクヤマドリのDNAデータを用いて検証した結果、 Wu et al. 2015 は妥当であろうという結論に達しました。

「分子系統解析を行ったらこうでした」だけでは分類学の研究としては全くダメ、と考えています。次に何をやるべきなのか?形態をより詳細に観察し対象種の真の姿を知ることでしょう。

Fig.1-3は最近採集したドクヤマドリでいずれも数十枚のカットを深度合成してあります。Fig.1は縮小していない画像ですので、ズームして見ると子実体の様子をくまなく詳細に見ることができます。

Fig.2は孔口の様子で倍率3倍のマクロ撮影画像をピクセル等倍でトリミングしたものです。孔口が赤い様子が見て取れます。これまでにドクヤマドリの管孔面が汚れたような感じに見えることがありましたが確実な記録を残すことはできませんでした。高倍率マクロ*と深度合成を用いることで「孔口は赤い」と確実に言える画像が得られるようになりました。赤い孔口は本種がNeoboletusであることの証拠のひとつになります。

Fig.3は柄の基部にある菌糸体Basal tomentumです。剛毛状**の菌子束が密集して立ち上がっています。この形状はオオウラベニイロガワリ、アメリカウラベニイロガワリ近縁群、コゲチャイロガワリなどと共通していて、いずれもNeoboletusに属する種です。これも本種がNeoboletusであることの証拠のひとつになります。

*3倍では「高倍率」ではないとツッコミが入りそうですが、本サイトでは通常のマクロ撮影は等倍まで、等倍を越えるものを高倍率マクロとして扱っています。
**剛毛とするのにはちょっと抵抗があります。菌糸束は軟質なので人に説明するときは「面相筆の毛先のような」と表現しています。この形状に特に用語は当てられていないようです。アメリカの文献では単にhairと書かれている例があります。

引用文献
Wu G, Zhao K, Li YC, Zeng NK, Feng B, Halling RE, Yang ZL (2015) Four new genera of the fungal family Boletaceae. Fungal Divers. doi:10.1007/s13225-015-0322-0

Fig.1 Fig.2 Fig.3


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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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