くりかわニガイグチ?

Fig.1は7月下旬に福島県川内村で行われた菌類懇話会例会にて採集された物です。おそらくモミ樹下です。妙なイグチが採れたということで見解を求められましたので、クリカワヤシャイグチの範疇と思っているものと回答したところ、二名の方から、いやちょっと違うんじゃないかと異論をいただきました。

となると胞子だけでも顕微鏡で見ようということになります。私は別の標本の撮影で手がいっぱいだったので、メンバーのひとりがプレパラートを作成しました。で、そのプレパラートは水封なのかKOH封入なのか確認しませんでしたが、視野に見える胞子は通常のイグチ型で無色、平滑でした。クリカワヤシャイグチであれば、表面に模様が見られるはずなので、ひょっとしたらニガイグチ属なのかもしれないということでその場は終了しました。

で、そのことが頭に引っかかっていたので、標本を検討することになるわけです。Fig.2はKOHで封入しましたが、いわゆる蜜色と表現される典型的なイグチの胞子の色です。この時点で、胞子がKOH中で無色であるニガイグチ属の可能性は否定されました。輪郭に注目すると表面は平滑であるように見えます。

KOH封入ですと内容物が透けて見えるため、ピントを手前に送り表面に合焦しても模様があってもよく分からないことがあります。そこでMelzerで封入し、照明にブルーフィルターを用いモノクロ撮影をしたのがFig.3です。やはり微細な模様が存在しました。この大きさ、コントラストですと、水封、あるいはKOH封入で対物40倍では判別不可能でしょう。現場での簡単な観察では分からなかったのも仕方がないといえます。

幸い富山県産のクリカワヤシャイグチが手元にあるので比較してみました。Fig.5はKOH封入ですが、輪郭部を見れば表面に模様があることがすぐに分かります。やはりMelzerで封入し、モノクロ撮影をすると明瞭に模様が浮かび上がりました(Fig.5)。

Fig.1のイグチは、ニガイグチ属ではなくヤシャイグチ属で、クリカワヤシャイグチではないがそれに近い未報告の種ということになります。

Fig.1 Fig.2 Fig.3
Fig.4 Fig.5


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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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