Boletus odaiensis Hongo オオダイアシベニイグチ |
肉眼的特徴 かさ:径 75-120 mm、初め半球形のち饅頭型を経て平開する。表面はフェルト状、老成した子実体ではほぼ平滑、乾性で湿った時には弱い粘性を生じる。初め橙色またはややオリーブ色を呈し、成熟すると鈍橙色から鈍赤色で、しばしば周辺部にむかってオリーブ色を呈し、あるいは全面がピンク色を呈し、まれに全面がオリーブ色を呈する。擦っても変色しない。 柄:70-110 × 14-30 mm, 上下等経または下方に向かってやや太まり、しばしば便腹状、中心生、中実、上部または極頂部に赤色または黄色の網目を有し、下方に向かって縦長で不鮮明、条線様となり、下部では黄色の細粒点が散在し粘性を欠く。地の色は上部で赤色、下方へ向かって淡黄色から黄白色、まれに下方まで赤色を呈し、または赤色を欠く。擦っても変色しない。基部を被う菌糸体(Basal tomentum)は表皮に圧着し毛羽立たないか、やや綿毛状、淡黄色から黄白色。 肉:かさの肉は厚さ 20 mm 以下、黄白色でかさ表皮の直下ではかさと同色を呈し、空気に触れるとゆっくり弱く青変したのち退色する。柄の肉はかさの肉よりも濃色で変色性はないか、上部のみわずかに青変する。特別な味や臭いはない. 管孔:長さ 15 mm 以下, 柄に直生または周囲において陥入し管孔壁が柄に垂生する。孔口面は平らではなく不規則な凹凸状、はじめ明黄色で成熟すると帯緑黄色、傷つけると速やかに青変する。孔口は大きさ 1-2 per mm、類円形、類角形、不規則に配列し、管孔と同色か部分的に赤色、かさの周辺部では赤色、まれに全面が赤色となる。傷つけると速やかに青変する。 胞子紋:オリーブ褐色 肉眼的呈色反応:かさ表皮は KOH または NH4OH で橙色、NH3 で緑色に変色し、かさ肉は KOH で褐色、NH4OH で淡黄色、ホルマリンで淡青色に変色、管孔は KOH または NH4OH で褐色、フェノールまたはホルマリンで淡青色に変色、柄表皮の赤い部分は KOH またはNH4OHで黄色に変色する。 |
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Fig.1 | Fig.2 |
Fig.3 オリーブ色系のかさ |
Fig.4 |
Fig.5 オリーブ色系のかさ |
Fig.6 |
Fig.7 孔口は管孔と同色 |
Fig.8 孔口が赤くなる変異 |
Fig.9 肉の青変性は弱い |
Fig.10 かさ表皮の赤い色素が肉にまで及んでいる |
Fig.11 かさ表皮 |
Fig.12 かさ表皮 |
Fig.13 孔口は成熟すると類角形となる。部分的に赤い。 |
Fig.14 かさ周辺部では孔口は赤い |
Fig.15 未成熟子実体の孔口 |
Fig.16 柄頂部の網目 |
Fig.17 柄頂部の網目 |
Fig.18 柄基部の菌糸(Basal tomentum) |
顕微鏡的特徴 担子胞子:(11.1-) 13.5-15.7 (-18.9) × (3.8-) 4.8-5.5 (-6.7) μm, (n = 1440, mean length = 14.61 ± 1.07, mean width = 5.13 ± 0.37, Q = (2.1-) 2.6-3.1 (-4.4), mean Q = 2.86 ± 0.26, 12 標本から測定)、長楕円形から類紡錘形で側面になだらかな凹みがあり(イグチ型)、平滑、薄壁(0.4-0.5 μm)、ドライマウントまたは水封で淡灰緑色、KOH中で蜜色、非アミロイド。 担子器:管孔側面に散在し、大きさ (25.3-) 26.7-30.9 (-32.6) × (9.2-) 10.5-11.7 (-12.5) μm, (n = 28, mean length = 28.81 ± 2.11, mean width = 11.13 ± 0.60)、こん棒形、3-4胞子性、薄壁(0.5 μm 内外)、KOH中で淡黄色、非アミロイド。ステリグマは大きさ (3.1-) 3.7-6.0 (-6.6) × (1.7-) 1.9-2.4 (-2.7) μm, (n = 15, mean length = 4.85 ± 1.11, mean width = 2.17 ± 0.28)。 側シスチジア:管孔側面に散在し、大きさ (37.1-) 48.7-66.4 (-71.4) × (8.0-) 8.8-11.3 (-12.5) μm, (n = 30, mean length = 57.53 ± 8.84, mean width = 10.05 ± 1.26)、紡錘形、薄壁(0.5 μm 内外)、KOH中で淡黄色、非アミロイド。 縁シスチジア:実質中層菌糸の先端に密集し不実帯を形成し、大きさ (24.8-) 27.1-37.1 (-43.7) × (4.5-) 5.3-7.3 (-8.2) μm, (n = 19, mean length = 32.11 ± 5.00, mean width = 6.30 ± 0.96)、紡錘形、薄壁(0.5 μm 内外)、KOH中で淡黄色、非アミロイド。 子実層托実質菌糸:中層菌糸は太さ (3.5-) 4.0-5.3 (-5.9) μm, (n = 39, mean width = 4.65 ± 0.62)、薄壁、 KOH中で淡黄色、非アミロイド。側層菌糸は中層菌糸より外側へ向かって緩く散開し、太さ (6.1-) 7.6-10.9 (-13.3) μm, (n = 40, mean width = 9.24 ± 1.62)、薄壁、KOH中で無色、コンゴーレッド染色においてしばしば螺旋状の壁内色素(intraparietal pigment)が認められる。非アミロイド。 かさ表皮:毛状被を成し、若い子実体ではやや直立して配列し、老成すると緩く錯綜しやや匍匐状となる。かさ表皮を構成する菌糸は、太さ (2.7-) 4.2-6.2 (-9.4) μm, (n = 274, mean width = 5.18 ± 0.98, 3 標本から測定)、円柱形、末端細胞は大きさ(26.1-) 37.3-66.6 (-90.3) × (6.1-) 8.2-14.0 (-25.2) μm, (n = 111, mean length = 51.93 ± 14.64, mean width = 11.06 ± 2.89, 3 標本から測定)、円柱形から狭こん棒形で、しばしばあるいは頻繁に先端または全体が肥大し、広こん棒形、洋梨型、薄壁(0.5 μm 内外)。赤色の色素を有し、黄色の色素を有するものが混在し、まれに赤色の色素を欠く。赤色の色素はKOH中で溶解し淡黄色となり、黄色の色素は KOH で溶解しない。しばしばゼラチン質を被り、まれにコンゴーレッド染色において螺旋状の壁内色素(intraparietal pigment)が認められる。非アミロイド。 かさ実質菌糸:緩く錯綜し太さ(2.9-) 5.0-10.8 (-15.0) μm, (n = 84, mean width = 7.86 ± 2.90)、薄壁(0.5 μm 内外)、KOH 中で無色。 柄表皮;柄の網目の部分では子実層状被を形成し、柄の下方では平行菌糸から成り、柄シスチジア、柄担子器からなる集合体(肉眼的には細粒点に見える)が散在しする。最上層の平行菌糸は太さ (3.2-) 3.7-5.4 (-7.0) μm, (n = 50, mean width = 4.54 ± 0.84)、薄壁(0.5 μm 内外)。柄シスチジアは、頂部の網目部では大きさ (31.4-) 33.5-42.4 (-49.5) × (6.3-) 7.7-10.1 (-11.8) μm, (n = 30, mean length = 37.94 ± 4.44, mean width = 8.87 ± 1.19)、紡錘形、薄壁(0.5 μm 内外)、網目の間では大きさ (22.2-) 26.3-38.2 (-42.9) × (7.1-) 8.2-11.2 (-12.7) μm, (n = 22, mean length = 32.25 ± 5.92, mean width = 9.68 ± 1.48)、こん棒形からやや紡錘形、薄壁(0.5 μm 内外)、中腹では大きさ (21.8-) 26.1-42.1 (-45.4) × (11.1-) 10.6-16.4 (-20.3) μm, (n = 12, mean length = 34.10 ± 8.00, mean width = 13.53 ± 2.92)、こん棒形から広こん棒形、薄壁(0.5 μm 内外)しばしばやや厚壁(0.7-1 μm)、下部では大きさ (32.3-) 34.8-54.3 (-59.9) × (7.6-) 8.8-14.6 (-17.9) μm, (n = 16, mean length = 44.54 ± 9.76, mean width = 11.72 ± 2.91)、こん棒形、広こん棒形、紡錘形、広紡錘形、薄壁(0.5 μm 内外)しばしばやや厚壁(0.7-1 μm)。柄担子器は大きさ (26.3-) 26.2-37.0 (-44.2) × (7.3-) 8.5-10.7 (-11.5) μm, (n = 11, mean length = 31.57 ± 5.41, mean width = 9.56 ± 1.10)、こん棒形でしばしばいびつに変形し、2-3 胞子性。肉眼的に赤色に見える部位は、全ての組織が赤色の色素を有し、KOH 中で溶解し淡黄色となる。柄表皮を構成する全ての組織は非アミロイド。 基部を覆う菌糸体(Basal tomentum):柄表皮を構成する菌糸からゆるく立ち上った菌糸と柄シスチジアの先端が伸長した菌糸が錯綜し、シスチジアは長紡錘形で先端が長く伸長し長さは 100 μm 以上、幅は 7-10 μm、伸張した菌糸の太さは (2.0-) 3.0-4.1 (-5.5) μm, (n = 678, mean width = 3.52 ± 0.53, 6標本から測定)、薄壁(0.5 μm 内外)。非アミロイド。 柄実質菌糸:太さ (4.2-) 8.8-15.3 (-23.0) μm, (n = 75, mean width = 12.07 ± 3.26)、円柱形、やや厚壁 (0.4-) 0.6-1.0 (-1.1) μm, (n = 23, mean width = 0.77 ± 0.22)、KOH中で無色から淡黄色、非アミロイド。 全ての菌糸にクランプを欠く. |
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Fig.19 担子胞子 |
Fig.20 担子器 |
Fig.21 側シスチジア |
Fig.22 縁シスチジア |
Fig.23 子実層托実質 |
Fig.24 子実層托実質の側層菌糸 |
Fig.25 かさ表皮縦断面 |
Fig.26 かさ表皮を構成する菌糸末端細胞 |
Fig.27 未成熟子実体のかさ表皮 |
Fig.28 かさ表皮を構成する菌糸末端細胞 |
Fig.29 柄頂部網目の縦断面 |
Fig.30 柄シスチジア(網目部) |
Fig.31 柄シスチジア(網目の間) |
Fig.32 柄シスチジア(柄下部、やや厚壁) |
Fig.33 Basal tomentum |
発生地、発生時期と分布:6 月から9 月にウラジロモミ、オオシラビソ、コメツガ等の亜高山帯針葉樹林に発生し、分布は本州の亜高山帯および北海道。 供試標本:長野県周辺の山岳地帯、および富士山で採集された全 24 標本が筆者の標本庫に、長野市戸隠で採集された 20 標本余りが国立科学博物館に仮管理番号 KH-EX のシリーズとして保管されている(詳細は省略)。 孔口は比較的大型で類角形である点が、Singer(1986)の分類体系による Xerocomus アワタケ属に類似しているため、分類学的所属位置について再検討の必要があると考えられる。北米産の Boletus smithii Thiers は、かさの色は幼時オリーブ色を呈する、かさの肉は表皮直下で赤色を呈する、孔口は大きさ 1-2 per mm、類角形で、ときに管孔面全面が赤色となる、柄の色は上部が赤色、下部が黄色である点(Thiers 1965, Bessette et al. 2000)が本種に酷似しているが、網目を欠く、胞子の大きさはより大型である点で区別することができる。北米産 B. miniato-olivaceus Frost も B. smithii と同様に本種に類似するが、青変性が強い、胞子の大きさはより小型である点で区別することができる。 胞子サイズ比較表
引用文献 ギャラリー |
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