Boletus ventricosus Taneyama et Har. Takah. sp. nov.
ホテイイロガワリ(新種)

Mycoscience 54 (2013) p.461

ventricosus = ventricose 膨らんだ


肉眼的特徴

:90-180mm,半球形,のち饅頭型から平らに平開する.縁はわずかに管孔面よりせりだし,幼時内側へ巻く, 乾性,平滑,湿時弱い粘性がある. 帯黄褐色, 褐色, 赤褐色, 擦ると速やかに青黒く変色する.

:厚さ10-35mm,淡黄色,傷つくと速やかに強く青変する. 特別な味はなく線香のような臭いがある.

:60-175×24-50 mm, 下方に向かって太まりさらに基部へ向かって細まる(便腹状), あるいは下部が著しく膨らむ, 中心生, 中実, 乾性.地色は黄色から帯橙黄色,通常頂部に細かい網目を表し下方へ向かって縦長不鮮明となるが中部まで明瞭な場合もある.網目の色は頂部では黄色, 下方へ向かって橙色.下部は帯赤褐色の細粒点に覆われる. 擦ると速やかに強く青変する. 基部は黄白色の菌糸体に覆われる.

管孔:長さ 3mm程度で老成したものは6mm程度 , 柄の周囲において浅く陥入し,はじめ黄色のちに帯緑黄色, 老成すると橙色を帯びる. 傷つくとと速やかに強く青変する.

孔口:2-3 per mm, 類円形, 管孔と同色. 傷つくとと速やかに強く青変する.

胞子紋:オリーブ

呈色反応:KOHで全ての部位が褐変;アンモニアで全ての部位が黄変または褐変;グアヤクチンキで全ての部位が青変;フェノールで全ての部位が褐変;ホルマリンで肉が弱く青変, かさ表皮が褐変, 柄表皮の赤い部分が青変.


顕微鏡的特徴

担子胞子:(9.1-)9.6-11.0(-13.2) × (3.7-)4.0-4.6(-5.4)μm, (n=147, mean length = 10.31±0.69, mean with = 4.32±0.28, Q = (2.0-)2.3-2.5(-2.7), mean Q=2.39±0.13);側面になだらかな凹みがあり(イグチ型), 楕円形, 平滑, 薄壁,帯黄灰色,KOH下で淡い蜜色,非アミロイドまたは弱い偽アミロイド.

担子器(24.7-)26.8-33.0(-38.3) × (8.6-)9.1-10.2(-11.2)μm, (n=40, mean length = 29.87±3.08, mean with = 9.66±0.58);4胞子性. ;KOHで淡黄色から無色,非アミロイド.

側シスチジア:(34.4-)41.1-56.0(-66.5) × (5.8-)7.2-10.1(-11.9)μm, (n=31, mean length = 48.57±7.45, mean with = 8.63±1.43); 紡錘形,無色,薄壁.KOHで淡黄色から無色,非アミロイドまたは弱いアミロイド.

縁シスチジア:(11.5-)16.2-25.5(-31.1) × (5.9-)6.7-8.7(-10.6)μm, (n=55, mean length = 20.88±4.67, mean with = 7.72±1.00);便腹形, 紡錘形,無色,薄壁.KOHで淡黄色から無色,非アミロイドまたは弱いアミロイド.

子実層実質を構成する菌糸:外側へ向かって散開する(イグチ亜型).側層菌糸の太さ(4.9-)6.2-10.7(-14.0)μm (n=68, mean with = 8.44±2.28),中層菌糸の太さ(3.4-)4.1-6.0(-7.1)μm (n=36, mean with = 5.06±0.96);KOHで淡黄色,弱いアミロイド.

かさ表皮を構成する菌糸:毛状被を形成し赤褐色の色素を有する,径(3.4-)4.4-5.6(-6.3)μm (n=51, mean with = 4.99±0.62),しばしばこぶ状の膨らみやゼラチン状付着物が見られる. 末端細胞は(27.8-)41.5-70.8(-93.0) × (5.4-)5.9-8.8(-12.6)μm, (n=33, mean length = 56.17±14.64, mean with = 7.33±1.47),円柱形,長こん棒形,褐色の内容物を有する;KOHで橙色,非アミロイド.

かさ実質を構成する菌糸:緩く錯綜し,径(4.2-)5.2-8.5(-14.8)μm (n=64, mean with = 6.88±1.66),KOHで無色,弱い偽アミロイド.

柄表皮:子実層状をなし柄担子器,偽担子器,柄シスチジアが密に並び,赤褐色の色素を有する;KOHで橙色,非アミロイド.

柄シスチジア:棍棒形,広棍棒形,広紡錘形,楕円形, 薄壁, 隔壁を持つ物が見られ, 頂部では(19.0-)22.6-33.8(-45.3) × (7.8-)8.3-13.2(-16.0)μm, (n=29, mean length = 28.22±5.59, mean with = 10.76±2.42), 中部では(20.3-)25.2-43.1(-57.9) × (8.6-)10.7-16.1(-19.4)μm, (n=37, mean length = 34.14±8.97, mean with = 13.37±2.71), 下部では(17.5-)24.8-40.0(-46.7) × (8.1-)10.1-15.9(-20.6)μm, (n=52, mean length = 32.41±7.60, mean with = 12.99±2.88)

柄表皮下層:網目部の直下は側層菌糸と同様の構造をもち, 成熟した子実体では著しく肥大した細胞をもつ, 径(5.9-)7.8-18.2(-25.1)μm (n=57, mean with = 13.00±5.16).;KOHで無色,偽アミロイド.

柄実質を構成する菌糸:縦方向に平行に走る菌糸からなり,表皮直下ではゆるく錯綜する,径(3.6-)4.5-8.3(-11.1)μm (n=32, mean with = 6.40±1.86);KOHで無色,偽アミロイド.

全ての菌糸にクランプを欠く.

供試標本:国立科学博物館に所蔵 TNS-F-44605から44617


発生地,時期と分布:7月から9月にアカマツ, コナラ,ミズナラ,クヌギ等の混生林に発生し,分布は長野,新潟,富山(私信),福島(私信).

コメント:本菌は大型で柄下部が膨らみ, 短い管孔, 強い青変性を持つ特徴がある. 管孔が短い事からニセアシベニイグチ, 青変性を持つことからミヤマイロガワリと混同されやすい. ニセアシベニイグチは肉の青変性は弱くチーズ様の匂いがあり, 柄の網目は頂部に限られ, 縁シスチジアは先端が膨らんだこん棒形, 柄表皮下層の菌糸は肥大せず径5.2-9.2μmである点が本種と異なる. ミヤマイロガワリはかさの色が暗赤褐色を呈し, 柄の網目は頂部に限られ, 肉にはスパイスミックス様の匂いがあり, かさ表皮を構成する菌糸の末端細胞はシスチジア状に肥大する点が本種と異なる.

参考文献
Hongo T, Nagasawa E, 1975. Notes on some boleti from Tottori. Reports of the Tottori Mycological Institute 12: 31-40.
Hongo T, Nagasawa E, 1980. Notes on some boleti from Tottori. Reports of the Tottori V Mycological Institute 18: 133-141.

かさ表皮
柄頂部網目
呈色反応
柄下部
柄基部
子実層托実質断面
子実層托実質断面
縁シスチジア
側シスチジア
担子器
かさ表皮 in water
かさ表皮菌糸先端細胞
柄網目部の表皮下層
柄網目部の表皮下層
柄上部シスチジア
柄上部シスチジア
柄下部シスチジア
柄下部シスチジア
胞子:ドライ
胞子:KOH
胞子:Melzer



その他の写真
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