肉眼的特徴
かさ:径45-125(-200)mm,はじめ半球型から平らに開き縁は管孔面よりややせりだす,幼時縁は内側に巻く;はじめフェルト状で乾性,のちにやや平滑となり褐色の鱗片状菌糸を付着し湿時弱い粘性がある;色は幼時類白色のちにバラ色となる;変色性は無い.
柄:長さ70-120mm 径17-35mm,円柱形または下方に向かってやや膨らむ,中心性,中実;地色は頂部黄色から橙色,下部淡黄色からベージュ; 表面は頂部では赤色のやや隆起した網目(1.5x0.5mm内外)に覆われ下方に向け不鮮明で粗大(2.5x1.0mm内外)となり,下部は赤色の細粒点を密布し,基部は類白色から淡黄色の菌糸体に覆われる;傷つくと青変する.
肉:固く締まり,かさ部の厚さは10-22mm,色は淡黄色で成熟時には基部にしばしば赤みを持つことがある,空気に触れると速やかに青変する;特別な味や匂いは無い.
管孔:柄の周囲で陥入し長さ4-12mm,色は帯緑黄色で空気に触れると速やかに強く青変する.
孔口:径2-3per.mmで類円形;色ははじめ黄色のち赤色となる,傷つくと速やかに強く青変する.
胞子紋:オリーブ褐色
肉眼的呈色反応:KOHまたはアンモニアで全ての部位がオレンジ色または黄色に変色するが,しばしば肉の反応が弱いことがある;FeSO4で全ての部位が反応無し;グアヤクチンキで全ての部位が青緑色に変色するが,しばしば反応が弱いことがある;フェノールでかさ肉,柄肉が肉色に変色,管孔が褐色に変色,かさと柄の表皮でははじめ淡青色のち濃褐色に変色する;ホルマリンでかさと柄の表皮が淡青色に変色する;グアヤコールでかさと柄の表皮が淡黄緑色に変色する;アニリンで全ての部位が黄色または褐色に変色する.
顕微鏡的特徴
担子胞子:大きさ(9.1-)12.0-14.1(-16.1) x (4.1-)5.0-5.7(-7.0)μm 平均13.07 x 5.36μm Q値(1.9-)2.3-3.6(-3.1) 平均2.44 (N=958, 10標本で測定),長楕円形,楕円形,ドライマウントと水封で淡い帯緑黄色,KOHで淡い蜜色,メルツァーで黄褐色.
担子器:子実層に散性し,大きさ(25.4-)28.3-39.6(-50.1) x (10.1-)11.1-13.3(-15.0)μm (N=96, 4標本で測定),こん棒形,4胞子性.
側シスチジア:子実層に散性し,大きさ(31.8-)40.6-52.9(-61.4) x (5.2-)6.9-10.4(-13.0)μm (N=116, 4標本で測定),紡錘形.
縁シスチジア:管孔縁部に密生し不実帯を形成する,大きさ(17.3-)22.9-30.9(-36.1) x (3.3-)4.4-6.4(-7.8)μm (N=120, 4標本で測定),円柱形,紡錘形.
子実層托実質を構成する菌糸は外側へ向かって散開する(イグチ亜型).
かさ表皮を構成する菌糸は円柱形で最上層では匍匐しその直下では緩く錯綜する,径(2.7-)4.0-6.3(-11.5)μm ave 5.13μm (N=200, 2標本で測定),菌糸表面はしばしば細胞間色素が付着し平滑ではない,成熟した子実体では赤い色素を有する.
柄表皮:子実層状をなし柄担子器,偽担子器,柄シスチジアが密に並び網目部分は密生した柄シスチジアによって構成されている.
柄頂部シスチジア:大きさ(14.8-)22.2-49.0(-76.5) x (6.4-)9.6-14.3(-19.0)μm (N=92, 3標本で測定),網目部を構成するシスチジアは広紡錘形,紡錘形,錐形,瓶形,卵形でしばしば隔壁を有し,網目の間のシスチジアは広紡錘形,卵形で前者よりも小型である.
柄下部シスチジア:大きさ(21.0-)28.9-67.2(-97.8) x (7.5-)10.3-16.4(-21.6)μm (N=40, 2標本で測定),広紡錘形,紡錘形,錐形,瓶形,卵形でしばしば隔壁を有する.
全ての菌糸にクランプを欠く.
発生地,時期と分布:
7月から9月にウラジロモミ,コメツガ等の亜高山帯針葉樹林に発生し,分布は本州中部山岳地帯と北海道.
コメント:
供試標本に於いては,担子胞子の大きさがホロタイプよりも若干大きい,柄の網目部のシスチジアは原記載に描かれていない形状のものが多数確認された.幼い子実体ではかさ表皮最上層の直下に赤い色素を持たないが,成熟した子実体では赤い色素が確認できた.
本州中部山岳地帯では標高1500m以上に発生すると思われたが,長野市内の標高1000mのウラジロモミ林での発生を確認した,北海道を除いた本種の発生地としてはもっとも標高が低いと考えられる.
類似種:
Boletus flammans Dick & Snellに酷似した未記載種と混同されている可能性があるが,幼時からかさの色が赤い,成熟時かさに褐色の鱗片状菌糸を持たない,かさ表皮は毛状柵状被からなる点に於いて容易に区別することが出来る.
参考文献
Takahashi H (2001) Mycoscience 42: 347-353
池田良幸(2005)北陸のきのこ図鑑
高橋春樹(1993)日本産イグチ科検索表(2),日菌ニュース20
長澤栄二(2003)日本の毒きのこ (フィールドベスト図鑑)
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