隠蔽種か?
さて標本整理に引き続きDNAデータの整理もしなくてはなりません。これまでに得られたデータ、100サンプル以上が手元にありますが、すぐそのまま系統解析に使用できるわけではありません。塩基配列を読みとる機械「シーケンサー」から得られた波形データ(Fig.1)を参照しながら、塩基配列が正しいのかを検討する作業が必要となります。
Fig.2-3はアシベニイグチBoletus calopusと同定した7標本の塩基配列を、系統解析ソフトウェアMEGA5のアライメントエディタで表示したものです。同種である生物は基本的に皆同じ塩基配列を持っています。具体的にはFig.2のようにきれいにそろって見えるわけです。この図では800ほどの塩基配列の1部分を表示していますが、別な箇所を見たFig.3では、上2段の配列が下5つの配列と異なっていることが分かります。
波形データを見た限りでは、ノイズを読み間違えたというわけではありませんでした。仮にそうであれば、上2段の配列が全く同じということはあり得ないはずです。
これら7つの標本は、肉眼的所見、呈色反応試験、顕微鏡的所見をもって「すべて同一種である」と確実に同定したつもりのものです。にも関わらず塩基配列が異なっているのはなぜなのでしょうか。考えられることは3つあります。
隠蔽種を発見した。
同定ミス
作業工程のどこかで標本を取り違えた。
隠蔽種を発見したのであれば、それはそれで楽しいことなのですが、同定ミスであればちょっとショックです。検証するためには他の種のデータと合わせて系統解析を試みる必要があります。結果、どうやら上2段の配列はオオダイアシベニイグチBoletus odaiensisのものであることが判明しました。
PCR作業の記録を見ると、確かに同じ日にアシベニイグチとオオダイアシベニイグチのPCRを行っていす。結論は「標本を取り違えた」となりました。
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