検鏡撮影時のシャッタースピード

今まで油浸100倍輪帯照明での撮影が満足できるものだったので、シャッター羽根の振動による像質への影響は無いものだと思いこんでいました。「あやしいきのこ」にライブビュー機能付きデジタル一眼レフによるライブビューのモニター出力画像とシャッターを切って撮影した画像との比較があり「シャッター羽根の振動による像質への影響はある。」という結論が導き出されていました。そこで私なりの検証をし考察してみました。

図はカメラのシャッター音を録音した波形ですが、これと同じように顕微鏡全体が振動していると考えられます。ミラーアップで使用しますので考察対象となるのはシャッター羽根の開きはじめから閉じるまでの時間となります(露光時間)シャッター羽根が開きその余震がなくなるまで約0.04秒、シャッター羽根が閉じる時間は約0.01秒とのことですので合計0.05秒間は確実に露光時間中に振動しているとみていいでしょう。シャッタースピード1/20秒以下では常に振動があるということになります。

シャッター羽根の開閉の時間(視野が揺れる時間)のトータルを0.05秒、振幅が一番激しい時間を0.01秒と仮定すれば、シャッタースピード1/20から1/100で撮影すると最悪の結果になると考えられます。それよりもシャッタースピードが10倍程度長ければ振動の影響はそれほどないのでは」という仮説のもとに以下のようにグラフィックソフトを使い考察しました。

  1. 背景に明度0%黒、その上に10%グレーの文字レイヤーを10枚をつくりレイヤーモード加算で合成します。
  2. 各レイヤーに移動ブラー5ピクセルを適用
  3. レイヤー10枚のうち、1つだけブラーをオンにしたものを10%、5つオンにしたものを50%とします。
  • 0%は全く振動が無い状態。
  • 50%は露光時間の半分が振動している状態。
  • 100%は露光時間中、常に振動している状態。
0% 10% 30%
50% 100%

0%と10%では並べて比べても差が分からないほどです。エフェクトオン、オフの切り替えでようやくなんとなく判別できるレベルです。30%からははっきり像質の劣化がわかります。100%は目も当てられません。


上記のことが現実に起こっているのか検証してみました。方法は下記の通り。

  1. 同一の被写体をシャッタースピードと感度を調整し撮影
  2. 感度を上げればシャッタースピードを短くという風にカメラの露出計で同じ露出になるように調整
  3. 場合によっては光源の明るさも調整。色温度が変化するのでオートホワイトバランスを使用。
  4. 取得画像がシャッタースピードによって変化するか?
1秒 0.5秒 1/8秒
1/20秒 1/60秒 2秒
まず油浸100倍での結果です。油浸100倍の場合、輪帯照明で胞子を撮影することが多くだいたいいつもシャッタースピード1秒程度でしたので1秒ではいつも通りの感じです。感度をあげてシャッタースピードを短くしていくと0.5秒では少し振動の影響が見られ画像が甘くなり、1/8秒ではだいぶブレが目立ちます。1/20、1/60になると目も当てられない状態です。2秒では1秒とほとんど差がありませんでした。シャッター羽根のわずかな衝撃でもミクロの世界ではとんでもなく大きなエネルギーなのだということがよくわかります。

40倍ではどうなのでしょうか。今まで40倍で撮影した担子器の画像に何となく不満がありましたが「担子器は大きな立体物なので全体にピントを合わせられないから」とあまり深く追求しませんでした。

1/640秒 1/160秒 1/60秒
1/30秒 1/15秒 1/8秒
0.5秒 1秒 1/20秒
1秒

当然、100倍で見ようが40倍で見ようが被写体は振動していますので低倍率では分かりづらいというだけで同じ結果となりました。40倍レンズは100倍よりも明るい分、シャッタースピードが明視野で1/20、輪帯照明で1/8程度のことが多く、先の100倍の実験結果からするともっと改善できるのではと予想されましたがやはりシャッタースピード1秒で最良の物となりました。(0.8秒くらいでもいいのかもしれません)

また1/640秒では幾分改善されていますので、それ以上、例えば1/1000まで速くすればよさそうですが強力な光源が必要となるでしょう。

結論は「検鏡撮影でのシャッタースピードは1秒がベスト」となりました。

明視野、偏斜照明、輪帯照明、暗視野の順で画像がシャープになって行くと感じていましたがそれは回析光の角度云々によるものと思っていました。しかしそれは部分的にはそうであっても単に「照明法が暗くなって行く分、露光時間が長くなりシャッター羽根の振動の影響を受けにくくなっていたため」ということが確認できました。



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