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なんちゃってリアルタイム深度合成

一眼レフカメラによる検鏡写真撮影において、シャッタースピードは1秒がベストであるという結論を得て以来、そのように実践していますが、シャッタースピードを1秒にすることによる強力な副産物が得られました。

検鏡図作成や、組織の大きさ測定は、かつては途方も無い労力を必要とするものでしたが、今やデジタルイメージングの恩恵を受け、手軽に素早く行えるものとなりました。具体的には、検鏡写真を素材にPhotoRulerで胞子の大きさを測定したり、ドローソフトウェアで検鏡図を描くといったことが挙げられます。

しかし、よい被写体に巡り会えなければ、真の効率化は計れません。標本の状態が理想的でない場合、先端から末端までピントが合うようにこちらを向 いていてくれる都合の良いシスチジアや担子器が、大変少ない場合が多々あります。

シスチジアや担子器が、z方向(奥行き方向)に傾いていると被写体の全貌をシャープに映し出すことができません。その場合コンデンサー絞りを絞り、被写界深度を深くすることである程度対応する事ができます。しかし、その方法では、解像感の無い、ぎらぎら、ごちゃごちゃした像しか得られませんし限界もあります。

本来ならばそういった被写体は「撮影しない方針」が正しい選択でしたが、名付けて「なんちゃってリアルタイム深度合成」のテクニックを駆使する事により全面的に問題を解決する事ができました。

Fig1
従来、撮影対象とならなかった被写体
Fig2
従来、撮影対象とならなかった被写体
Fig3
なんちゃってリアルタイム深度合成で得られた画像

fig1は、シスチジアらしき物の片端にピントが合っている状態です。それをfig2の位置にまでピントを送り観察すると何となく全貌が分かりますが、 それだけでは「シスチジアなのかどうか」はよく分かりませんでした。しかし「なんちゃってリアルタイム深度合成」を駆使すれば、なんとfig3のように全貌を明らかにする事ができるのです。

Fig4 Fig5 Fig6

方法は「1秒という長い露光時間の間にピントを操作する」これだけです。コントラストの高い輪郭部分をピントを送りながら露光し、ピントのあっていない部分はぼけたまま露光されるので、あたかも輪郭部のみを取り出したような像となるわけです。

シャッターが開いた直後にピントを送り始めシャッターが閉じる直前に目的の位置までピントを送っていくのですが、 その操作が少しばかり難しいかもしれません。が、数回チャレンジすれば、良い画像が得られます。場合によっては、ピントを送り始めるタイミングを 微妙に遅らせたり、目的のピント位置まで早めに到達するよう操作したり、また瞬間的にピントをチェンジするといった技も有効です。

その他の作例を以下に示します。fig7は担子器のほかに偽担子器などの組織が視野に密集していましたが判別可能なレベルの像が得られました。fig8のように視野がすっきりしていればより効果が高いでしょう。

fig9-10は、かさ表皮の毛状柵状被を形成する菌糸の末端細胞です。通常では長さ100ミクロンに及ぶ細胞全体にピントが合う例は大変少なく、良質の画像を必要数集める作業はかなりの時間を要するものでしたが、この方法を使うことにより必要最低限の画像であればテンポ良く集めることが出来るようになりました。染色は細胞壁を染めるコンゴーレッドが適しているようです。輪帯照明法(fig11)や輪郭部のコントラストが高くなる暗視野法(fig12)でもよい結果が得られました。

Fig7
混み合った視野でも判別可能なレベル
Fig8
すっきりした視野であればこの通り
Fig9
かさ表皮の毛状柵状被を形成する菌糸の末端細胞
Fig10
かさ表皮の毛状柵状被を形成する菌糸の末端細胞
Fig11
輪帯照明
Fig12
暗視野

こういった、光学的操作で得られた画像が論文用として通用するのかはわかりませんが(そもそも論文用ならば意地でもよい被写体をさがすでしょう)、目的を検鏡図作成や組織の大きさ測定用の素材、個人的記録と限定すれば確実に有用であると言い切れましょう。今後、標本のデータ収集がより素早く綿密に行える事が確実となりました。

胞子の撮影にも有効なのかといいますと、微妙です。雰囲気はでますがシャープさに欠けた像となりました。画像処理でそれなりの見栄えにはなるので、学術目的ではなく個人的記録用でしたら問題なさそうです。「なんちゃってリアルタイム深度合成」は被写体の輪郭を捉えるには有効ですが、表面にとげや皺を持つ質感には不向きであるといえましょう。

リアルタイムで深度合成演算をしてくれるシステムがあるようですが、大変高価なものでとても個人で所有できるものではないです。しかし、この「なんちゃってリアルタイム深度合成」のコストは「ただ」です。

Fig13
輪郭に合焦
Fig14
表面に合焦
Fig15
なんちゃってリアルタイム深度合成
Fig16
ジンガサドクフウセンタケの胞子

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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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