標本採集の極意軟質で水分を多く含むきのこを持ち帰る際には注意すべき点が多々あります。とりわけ採集方法で論外なのは「かごの中にどんな種でもそのまま放り込む」です。傷だらけに、泥まみれに、そして場合によっては変色してしまったり・・・。 採集会で「自身で採集したきのこを他の方に譲ってあげる」というケースは度々ありますが、その際、満面の笑みで「ありがとうございます!」と受け取っているように見えても、内心では「こんなに汚しやがって!」と思われることもあるかもしれません。こんなことで人間関係が悪化するのは大変好ましくないので、日頃からきれいに採集する習慣を身につけたいところです。 良識あるきのこ会では、採集用の紙袋を配布し1種類ごとに標本を収めることをしていますが、本稿ではさらに1歩進んだ採集法を紹介します。イグチの中には触っただけで変色してしまう種が沢山あります。ウラベニイロガワリ節に属する種がもっとも多いです。これらをきれいに採集し持ち帰るのは難易度が高いのですが、工夫次第で美しい姿のまま持ち帰ることができます。ここでは我がフィールド調査員(妻)とバライロウラベニイロガワリさんにご登場いただき、研究室に連行されるまでの一部始終を見ていきましょう。 バライロウラベニイロガワリさん発見!
生態写真を撮影したら、採集用具を用意します。 多くのきのこ狩りの方々がやるように「柄をガシッとつかんで引っこ抜く」というのは論外です。きのこの柄は「きのこを持つための取っ手」ではありません。柄の基部を傷つけないようにナイフで慎重に軽く掘り起こします。 指をそっと差し入れ、慎重に子実体を持ち上げます。肛門科の医師が触診するが如く乱暴にやってはいけません。あくまでも「優しくそっと」です。 この時、柄には決して触れてはなりません。傘表面も変色してしまう場合があるので、どうしても傘に触れなくてはならない場合は、最小限の面積を最小限の力で支える程度にします。 柄の基部の泥や落ち葉を取り除きます。虫に食われていないしっかりした子実体では、写真のように持つことも可能です。 柄の基部をキッチンペーパーで包みます。 柄の基部に付着した泥が飛び散って、かさや管孔を汚してしまうことを防ぐのです。 紙でくるくると包みます。 キャンディの包みのように両端をねじり完成です。車へ戻り次第速攻でクーラーボックスに保管します。それまでの間、信頼のおける人物以外にはきのこを見せてはいけません。すぐ指できのこを傷つけ「おっ!青くなった!」とやりたがる人もいるかもしれないからです。そうなったら「半熟に焼き上げた目玉焼きの黄身を壊される」のと同じくらいの怒りがこみ上げてきます。 というわけで無事に連行され、華々しくライトを浴びているバライロウラベニイロガワリさんです。 |
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