きのこ愛好者のためのDNAデータベース豆知識 その2

前回は誤同定に基づいた不正確なデータについて書きましたが、他にも問題があります。現在登録済みの既知種の数が圧倒的に少ないということです。なので「DNAを調べればすべて確実にケリがつく」わけがない、となります。

ヤマドリタケ属に限った話ですが、ヤマドリタケ属の命名規約上の有効名は1974種で、DNAバーコーディングに用いられるITSという領域が登録された既知種は327種でした(2015年6月7日の時点)。有効名のなかには他の属へ移されたりシノニムになってしまったものもありますので、現在使われている学名Current nameが半分の1000種だとしても、既知種の3割程度しか登録されていないということになります。

ちなみに日本産ヤマドリタケ属のデータはごくわずかです。「これ、何だろ?」と採集したイグチのDNAを調べても、せいぜい「海外の何々に近い種」といったことしかわかりません。

ヤマドリタケ属は比較的よく研究されている分類群ですが、ほとんど研究がなされていない分類群もありますので、きのこ全体で平均した場合、その半分であると仮定すれば、既知種の15%が登録されているに過ぎないと推測できます。

既知種の登録が完了するまでに何年かかるのか、ざっくり見てみましょう。

  1. きのこのDNA解析が盛んに行われるようになって10年とする。
  2. 15%登録するのに10年かかった。
  3. 一年あたりの登録数 15(%)÷10年=1.5(%)
  4. 100%に達するまでの年数 残りの種数85(%)÷1.5(%)=約56年
  5. 現在のペースで順調にいけば既知種の登録が完了するまで56年程度
さらに、すべてのきのこが登録されるまでだと
  1. きのこの推定種数は既知種の10倍とも言われている
  2. すべてのきのこのDNAが登録されるには560年かかる
  3. テクノロジーの進歩によって5分の1に短縮されたとしても100年以上の年月が必要。
「きのこの同定はDNAのみで」となる時代がやってくることは間違いないとは思いますが、少なくとも私たちが生存している間には、そうはならないのではないかとふんでいます。



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牛肝菌研究所 by yuichi taneyama










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